ヴェールを脱ぎ捨てて
‥けれど。「資金がない」そう、私は今現在、無一文なのである。こんなびりびりに破れた衣装ではなく、動きやすい格好を買うにしても、青年の姿見で未だに奉公人のドレスを纏う青年に相応しい服装を買うにしても寝る場所を確保するにも。青年自身が言ったのだ。ここは『現実』だと。幸せを掴むのは、そうそう、簡単にできることではない。しかし、私はあくまでも国を失ったとはいえ、姫の立場であって、さっきまでも寝る食べるには何ら困らない環境であったから、資金がない、という感覚に慣れることができない。まだ、店に入っても何かしら得られると思っている状態だ。現金がなければ無理な話なのに。青年に問えば、自分は物質であってしかし循環した生き物でないと言う。要するに、自分は鏡であるからそういったものに用がないということだろう。それに気づいた時には、青年はメイドの姿から黒スーツ姿に変わっていた。私がそう、望んだからである。そこでようやく、私は青年の本質的な使用方法を知ったと言えた。だから、お金が欲しい、と望んだら青年の身体から出てくるものではないことも理解できた。青年は私に直接的な支援ができないのだ。それができていたら、とっくの昔に私の目の前に私を愛してくれる誰かがいるはずなのだから。
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