ヴェールを脱ぎ捨てて
「‥稼ぐしかないな」「‥‥稼ぐ」何度もきいたことのある言葉で、そうして一度も実感したことがない言葉だった。確かに私は先程まで下働きとして働いていたけれど、住み込みであったし、自身の働いた賃金はその住み込みの払い金として使われていた、だから、お金を稼ぐ、という実感がなかったのだ。でも、今回は違う。お金を、稼がなければいけないのだ。それには、私を雇ってくれる店を探さないといけないし、まず、仕事の面接でこんな格好は‥。私は、忘れていた。思考の波に脳が集中していて、気づかなかった。ここはあくまでも、現実で、商店街で、商店街であっても、ここは下町。けっして、治安がいいとはいえないのだ。‥私は、忘れていた。視界が、人為的に暗くなる、その瞬間、まで。
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