ヴェールを脱ぎ捨てて
助けてほしい、という願いよりも、恐怖が私の感情を埋め尽くしているのだ。恐怖。一瞬として逸らされない白髪の男性の視線が、私の無限の恐怖をどんどん増大させていく。助けてほしい、という願いさえも消し去るように。「‥お前、恐がってる」感情なく抑揚のない、無機質な、事務的な声が、私の鼓膜を突然に揺らした。「大丈夫、俺、助け‥きた」‥!どういうことだろう。必死で、恐怖で埋め尽くされる脳をフル回転させ、途切れ途切れの、しかし意味は伝わってくる単語を繋いでいく。この男性は私が気絶から目が覚めたときにはすでに私を見つめていたから、てっきり、私を捕まえた人物だと思っていた。けれど、今、男性は確かに、助ける、といった。「女‥必要ない」でも、拭えなかった。未だに感じているこの、背筋が凍る、敵意―――――「女王、女、嫌う、男、欲しい‥お前、いらない、でも、ほしいやつ、いる。そいつ、隣の部屋。お前、それ、望んでない、だから、俺、助ける」―――光った。今、確かに男性の後方で何かが――私は目を細めて、その一点を見つめ―――「…‥!!!」男性は、腕をあげた。右手。感情のない事務的な動きで、指と指の間に挟んだ三本の短剣を、私に見せつけるように、男性は右手を上げた。「脳、首筋、心臓、三つ、同時‥刺す‥一瞬、大丈夫」何が大丈夫なのだろうか、と冷静に返答できる余裕はすでになく、きらびやかに煌めく死の光の眩しさに私は目を瞑ることも許されずに、叫ぶこともできず、なす術なく―――――。
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