ヴェールを脱ぎ捨てて
その仕草に何か心を打たれたような気がして異変に目を見開けば、目の前の侍女は、青年になっていた。白肌とその長髪の黒髪は変化がないものの、赤の目は切り長のそれとなり、ふっくらとしていた身体は筋肉のついた締まった細身の青年であった。「…!」「はは、驚いた顔もいいねぇ!」口調は先程の自称紳士であるのに、声色は明らかな男性の低音。「言っただろう、私は鏡だ」青年はもう一度、私に恭しく一礼をした。「鏡は映す。時には喜びを、悲しみを、しかし嘘だけは映さない。鏡は真似る。喜びを悲しみを!そうして望みを!」青年は、私に向かってその白い手を差し出してくる。「私はお嬢さん、あなたの心情を映す‥綺麗な部分も醜い欲望も全部。私は鏡。あなたの鏡。あなたにとっては利にも害にもなる存在」私はその差しのべられた手をとった。「さあ、いらっしゃいませ。望みを望むお嬢さん、私はあなたを映しだす‥どこまでも」青年はその私の手に唇で触れる。「あなたの幸せな姿を映す‥その時まで」どうして、こんな青年の誘いに手を伸ばしたのか、今の私には理由をつける術がない。ただ、私は私の汚い部分を見つめても、どうしても映したかった。青年の言う幸せな姿を。私‥マレーンである私自身を心から愛してくれる人間を‥。私は。