期間限定、恋人ごっこ
井口と一緒に教室に入ると、一瞬、みんながざわついた。
ちらちらこっちを見て、にこにこ? にやにや? してる。
「……」
「昨日の夜、藤川と吉村にメールで報告した」
「……」
井口の友人、藤川と吉村。
だめだ。あいつらに知られたら、すでに学年中が知ってる。
徐々に顔に熱が集まってくる。
注目を浴びるのには慣れてないし、みんな見てるだけで何か話し掛けてくるわけでもないし。
何か聞いてくれたら、それなりに答えようもあるのに!
「上岡」
「……とりあえず、手でも繋ぐか?」
淡々と言われて、差し出された手。
ちょっとだけ迷って、押し退けた。
「ま、もう教室だしな」
校庭辺りから繋いでおけばよかったか、と大して残念そうでもなく呟く井口を一睨みして、私は席に着いた。
……もう、何考えてるのか分からない!