期間限定、恋人ごっこ
足音も高らかに自分の席に向かい、どすんと椅子に座って机に突っ伏した私の頭上から、遠慮がちな声が降ってきた。
「あの、……小夏?」
親友の呼びかけに、ちょっとだけ顔を上げると、知里ちゃんが心配そうに覗き込んできた。
「よかったね、って言っていいの?」
私のことを、私以上によく知ってる知里ちゃんは、何かに気づいたのかもしれない。
具体的に何がどう、とかは分からないかもだけど……例えば、私の表情とかで。
「あんまり、幸せそうじゃないね?」
「そ、う?」
こくん、と頷いて、知里ちゃんは私の頭をぽんぽん撫でてくれた。
何があったか、話したい。
一週間しか、幸せじゃないんだよって。来週からは不幸せなのが決まってるんだよって。
井口、どう思う? 井口、どう考えてるのかな。
私のこと、どう思ってるのかな。
知里ちゃんの意見が聞きたい、けど。
言ったら、井口が悪者になりそうで。
大好きな親友に、大好きな井口が嫌われるのは嫌だから。
「何でも、ないよ」
とか、ごまかしてみた。
知里ちゃんは、ため息ついて、それ以上聞かないでくれた。