期間限定、恋人ごっこ
「……おいしい?」
「甘い」
「え、うそ」
あんだけ甘いパンをパクパク食べてた井口にとって、甘いなんて?
うちの玉子焼きには、普段、砂糖入ってないのに。普通のだし巻き玉子なのに。
一個つまんで、食べてみた。
「甘くないじゃん」
いつもの、しょっぱめの玉子焼き。
抗議するように口をとがらせた私を見る井口の眼は、楽しそうに細められていた。
「お母さん、料理上手だな」
「玉子焼きだけで、わかるもの?」
こくりとうなずいて、井口はまたパンをかじる。
ただ単純に、物を胃に納めているだけの作業みたいに、味気ない顔で。
「――おいしい?」
「まぁね」
それ以上は聞かなかった。
聞けなかった。