期間限定、恋人ごっこ
「どうした?」
「おえ」
「おえって何だ……」
「キモ」
「キモくはないだろう」
だって井口が「かわいい」とか言うなんて思わなかった。っていうか、そんなキャラじゃないし、私も井口も。どう反応していいかなんて、わかりっこない。
パチン、と留めた冊子を持った手が、顔に近付いてきた。
反射的にギュッと目をつぶると、トンと眉間をつつかれた。
「?」
「しわ」
そりゃ、しかめっ面にもなるでしょ!
かわいいなんて、かわいいなんて、男子から言われたことなんて一回たりともないのに……井口に言われるなんて。
うれしいというよりはずかしいというか、くすぐったいというか、……うれしいというか、でも顔に出すなんて恥ずかしい!
手を止めて、どこか楽しそうな様子で私を見ている井口を、睨みつけた。