期間限定、恋人ごっこ
「手! 止まってるんだけど?」
井口は私の睨みにも負けず、じっとこっちを見ている。
「な、なに?」
「……ありがとう」
「?」
不意打ちのお礼の言葉。
「別に……用事もなかったし、手伝いくらい、」
「それもだけど」
次の言葉を、待ってみた。
けど、井口はそれ以上何かをいう気配もなく、ただ私を見ている。
沈黙が居心地悪くて、わざと大きな音を立ててプリントを揃えた。
「上岡」
束を渡そうとした私の手首が、井口の大きな手に捕らえられた。
「!」
熱い。
触れられた部分から、彼の熱が流れ込んで来る。