期間限定、恋人ごっこ
心臓がどきどきする。
(嫌なことは早く終わった方が)
そう言ったのは、井口の声だった。私が聞き間違うわけない。あれは、井口の言葉。
嫌なことっていったよね。嫌なことってなに?
肩で息をして、壁に寄り掛かって気付く。私、走って逃げてきたみたい。
逃げるって、何から?
教室から? 井口から?
多分、違う。井口の本音、言葉からだ。
ずりずりと、身体を擦り下ろすみたいに、壁に寄り掛かりながら歩く。
足が重い。頭も心も身体全部が。
カバン、置いてきてしまった。
うっすら思い出したけど、関係ない。
保健室……ちょっとだけ、寝かしてもらおう。