期間限定、恋人ごっこ
先生、帰ってきたかな?
声、かけた方がいいかな、と思ったけど、何だか身体がひどく重くて、私は目を閉じたままじっと耳をそばだてていた。
静かな足音が、ゆっくりと私の寝ているベッドの方へと近づいてくる。さら、とカーテンの擦れる音がして、聞きなれた声が降ってきた。
「上岡……ここにいたのか」
小さな、かすれるような声。
私はびっくりして、返事するのも忘れて、身体を固くした。
井口。
井口、私を探してたのかな。
「カバン、ここに置いておくな」
そんな小さな声。私が眠っていたら、絶対に起きないだろう。
起こさないように、してるのかな。私が眠ってるって思ってるのかな。
そうかもしれない。
私は……いつだって、井口の声がしたら、ちゃんとそっちを見て、しっかりお話聞いたから。
こんな風に、聞こえないふりなんてしたこと、なかったから。