期間限定、恋人ごっこ

今だって、起き上がって聞きたい。
井口の声を聞きたいし、井口の考えてることが知りたいし、井口ともっとお話ししたい。
けど、私の身体は全然自由にならなくて、ほんとはこんなことしたくないのに、タヌキ寝入りみたいになって……。

す、と井口が息を吸う音まで聞こえる。静かな保健室。
私は、井口のすべてを邪魔しないように、じっと息を殺していた。

「聞かれ、ちゃったか、な……」

聞かれたって、何を?
いやなことは早く終わった方がいいってこと?
いやなことって何?
私と……

私と、付き合うこと?

きつくつむった目尻から、ぽろりと涙がこぼれた。
固いシーツはそれを吸い取ってくれなくて、ころころと滴が転がって止まった。
< 33 / 39 >

この作品をシェア

pagetop