期間限定、恋人ごっこ

井口は、その後しばらく黙っていた。
でも、立ち去る気配はなくて、私は起きるタイミングを逃した。

どうしよう、と思って目を開けようとした瞬間、

ぽん

頭を、そっとなでられた。
小さい子をあやすように、やさしい大きな手が、私の髪をリズミカルになでる。
髪がさらさらと音を立てて、井口の手のひらに擦れる。

「上岡……」

やさしい声。どうしたんだろう。
なんで、そんな――。

「ごめんな」

謝らないで。

「少し早いけど、」

その先は、ききたくな、

「もう、終わりにしよう」

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