マバユキクラヤミ
「ああ、ありがとう。」
落ち着きを取り戻したボクは、ベンチに腰掛けてスケッチブックを開いた。
作品が綴られているスケッチブックをめくるうち、妙な気分に襲われた。過去の作品一つ一つに、物足りなさを感じてしまう。うまく表現できないが、急に自分の感覚が1ランク上がった感じなのだ。更に、白紙の上にこれから描こうとする風景が、浮き上がって見える。イメージが、今まで無いほど鮮明に研ぎ澄まされていく。
ボクは凄まじいスピードで、公園の風景を1枚描き上げてしまった。海や山などよりも、更に手のかかる公園の風景を、である。
「すごいよ、うまいね、お兄ちゃん。もっと描いて。」
そう言ってボクの手元を覗き込むアイ。ボクがアイの横顔を覗き込むと、アイは歳に合わない長いまつげの奥から、これもまた歳に合わない艶っぽい流し目でボクを見つめ返す。
「じゃあ、今度は何を描こうかな。」
照れ隠しで眼を反らし、苦笑いでボクはアイに尋ねた。
「アイを描いて。」
「え?」
驚いて問い返すボクの目の前に、大きな、きらきら光る瞳があった。そして、アイの前髪がボクの額に触れそうなほどになると、アイはもう一度言った。
「アイを、描いて。」
ボクは、人物画は苦手だ。ふつうならアイの申し出を断わるところだが、その日のボクは、まるで何かに操られているかのように、さらさらとアイの姿を画用紙の上に描いていった。しかも、ボクは画用紙しか見ていなかった。勝手に手が動いていく。
落ち着きを取り戻したボクは、ベンチに腰掛けてスケッチブックを開いた。
作品が綴られているスケッチブックをめくるうち、妙な気分に襲われた。過去の作品一つ一つに、物足りなさを感じてしまう。うまく表現できないが、急に自分の感覚が1ランク上がった感じなのだ。更に、白紙の上にこれから描こうとする風景が、浮き上がって見える。イメージが、今まで無いほど鮮明に研ぎ澄まされていく。
ボクは凄まじいスピードで、公園の風景を1枚描き上げてしまった。海や山などよりも、更に手のかかる公園の風景を、である。
「すごいよ、うまいね、お兄ちゃん。もっと描いて。」
そう言ってボクの手元を覗き込むアイ。ボクがアイの横顔を覗き込むと、アイは歳に合わない長いまつげの奥から、これもまた歳に合わない艶っぽい流し目でボクを見つめ返す。
「じゃあ、今度は何を描こうかな。」
照れ隠しで眼を反らし、苦笑いでボクはアイに尋ねた。
「アイを描いて。」
「え?」
驚いて問い返すボクの目の前に、大きな、きらきら光る瞳があった。そして、アイの前髪がボクの額に触れそうなほどになると、アイはもう一度言った。
「アイを、描いて。」
ボクは、人物画は苦手だ。ふつうならアイの申し出を断わるところだが、その日のボクは、まるで何かに操られているかのように、さらさらとアイの姿を画用紙の上に描いていった。しかも、ボクは画用紙しか見ていなかった。勝手に手が動いていく。