いつか、伝えて
プロローグ
扉は開け放たれていた。
教室は茜色に染まり、
無邪気に笑いながら帰っていく、
同級生の声が教室中に響いている。
窓から入ってくる風は
夏場にもかかわらずどこか涼しい。
彼女は今日も教室に独り残る。
鞄に数冊の教科書を適当に
詰め込み、手にペンを持ち
椅子から立ち上がる。
彼女は手に持ったペンで
斜め後ろの席の
彼の机に文字を刻んだ。
“好きです。”
彼女は自分で刻んだ文字を
何度も何度も見直し、
そっとペンを置き、
机から離れようとした。