。・*・。。*・Cherry Blossom Ⅱ・*・。。*・。
それでも鴇田は俺に反論一つ言わない。
一度だけ―――こいつの前で意識を失ったことがある。そのときばかりはさすがの鴇田も顔色を変えて
治療に専念することを訴えてきた。
俺はその申し出を強固に跳ね除けた。
俺の体は俺自身が一番分かっている―――
だから尚更、今ここでくたばるわけにはいかないんだ。
「あと少し……もう少しだ……」
我知らず、言葉が漏れていた。
鴇田が振り返る。その表情に悲しみと苦しみを滲ませて、複雑に歪んでいた。
「そんな顔するな。まぁお前には迷惑掛けてばかりいるがな」苦笑を返すと、鴇田はかすかに笑った。
「迷惑なんてとんでもございません。私はあなたに一生の忠誠を誓った者ですから」
ある意味―――俺とこいつも深い絆で結ばれているのかもな―――……
二年前のあの夜―――雪斗の死体を何も聞かずに処分することを手伝ってくれた鴇田。
俺のせいでその手を汚く染め上げてしまった。
だから今度は―――俺が鴇田を助ける番だ。
イチが何を企んでいようと、どんな手を使ってでも阻止してみせる。
壁に掛けられた雨龍が俺の想いに呼応したのか、鞘が木の音を軋ませた―――
雨龍は、“二人目”を望んでいるのか―――
それとも止めて欲しいと願っているのか―――
俺にはわからない。
部屋にはまだ朔羅の香水「チェリーブロッサム」がほんのり残っている。
あいつの気配が―――いずれか消えてしまうのが、寂しくて俺は息をいっぱいに吸った。
戒なら、もっと近く……俺なんかよりもっと多くあの香りに包まれてるに違いない。
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