。・*・。。*・Cherry Blossom Ⅱ・*・。。*・。
『誰も知らない。誰も気付かない。
私はもうこの世に居ない。
この東京の街で“彼女”を守るために存在する者』
あのイチって女の声がテロップと共に流れ、イチの姿が幻想的に消えたり現われたり。
あたしはその映像から目が離せなかった。
~♪
街の喧騒の中、聞き慣れたメロディだけがはっきりと耳に届いた。
ああ…そだ。これは戒が勝手に設定した“極妻”のメロディ。
電話が鳴ってるってことは分かって、無意識のうちにあたしはバッグからケータイを取り出していた。
『私はあいつを許さない』
イチの顔がアップになってあたしを睨んでいた。
印象的な猫のような目。長い睫がつりあがった目をぐるりと囲んでいる。
迫力のある目力に、あたしは思わず一歩後退していた。
いや…あたしじゃなくて、映画の中の誰かを睨んでいるのだと言うことは分かってるのに―――
あたしにはその視線がちょっと怖かった。
~♪
メロディが鳴り続ける。
「朔羅、電話…出ないの?」リコの声を機械的に耳に入れ、あたしはほとんど無意識に通話ボタンを押した。
『朔羅!俺や!お前今テレビ見てるか!?』
戒の緊迫した関西弁の声を聞いて、こいつもどこかでこの映像を目にしてることに気付いた。
「今……見てる。目の前…大型ビジョンの…」
言葉にならない単語を繰り出して、あたしは呆然と流れる映像を見るしかなかった。
『待望の新人女優“you”主演、“双りぼっち”9月20日上映―――』
最後にナレーターらしき男の声が聞こえて、画面が切り替わる。
やっと……
やっと見つけた。