。・*・。。*・Cherry Blossom Ⅱ・*・。。*・。
慌てて振り向くも、背後には誰も居ない。
脚を止めてきょろきょろ周りを見渡しても、狭い廊下に気配を感じなかった。
立ち止まった部屋のドアには細いガラスがはめ込んであって、中の様子がちょっと窺える。
ちらりとその中を見ると
若い男女が抱き合ってキスの真っ最中だった。あたしがさっき戒とした軽ぅいヤツじゃなくて、かなりねっとりとした濃厚なチュー。
ぅを!!!
慌てて視線を逸らしつつも、
こんなところでイチャついてんなよ~!
って、恨みがましい気持ちであたしは歩き出そうとした。
「お嬢?」
先を行くキョウスケが、あたしの行動を不思議がったのかちょっと顔を振り向かせる。
その表情はいつも通り。
そのことにちょっと安堵しつつも、あの射抜くような強い視線が気になりあたしはもう一度だけ廊下を振り返った。
部屋からは各々の歌が漏れ聞こえてくるだけ。そこには誰の姿もない。
気のせい―――?
「何でもない」
あたしはそう返して、「いこっ」キョウスケを促した。