。・*・。。*・Cherry Blossom Ⅱ・*・。。*・。
これはもしかしたら鷹雄の罠かもしれない。
そうゆう考えが払拭できず、あたしは目的の場所から少し離れた場所に車を止め、双眼鏡でその様子を見守っていた。
夜でも埠頭は明るい。
あちこちに設置された街灯と、大型の客船の照明が暗い夜闇に浮かんでいる。
ところどころ設置されたベンチには誰も居なかった。
割りと名の知れたデートスポットだと言うのに、こんな暑い夜に好き好んで愛を語ろうと考えるカップルはいないようだ。
でもデートしてても、どうせ楽しい時間はすぐ終わり。
―――雨の気配を滲ませた空気が漂ってくる。天気予報ではこの時間帯降水確率は10%。だけど大ハズレね。
それが好都合だった。
そうこうしている内に、ゆっくりとスピードを落とした鷹雄のバイクが現れた。
彼は辺りを見渡すことなく、まるで最初から一人で来たかのようにバイクを止めて、憎たらしいほど長い脚を上げてひらりとバイクから降り立った。
そのまま様子を見るつもりで、あたしは双眼鏡を構えた。
鷹雄はサングラスを外すとシャツの中からタバコを取り出して、その一本に火を灯す。
ちょっと時間を気にするように腕時計を見ている。その仕草には不自然なものがちっとも感じられなかった。
そこでようやくあたしはエンジンを入れると、鷹雄の元に走り寄った。
鷹雄があたしのフェラーリに気付いて、顔を上げる。
あたしはライトを点滅させシャドウファントムの隣に車を横付けした。
鷹雄はまるで長年の友人であるかのようにちょっと手を上げただけで、マイペースにタバコを吸っている。
「はじめまして、と言うべきかしらね」あたしはそう言いながら車を降り立った。
「こんばんはって言うべきじゃないですか」
と鷹雄は返してくる。
はじめて聞く声は―――思った以上に深みのある低い声をしていた。