。・*・。。*・Cherry Blossom Ⅱ・*・。。*・。
「申し訳…ございません……」
鴇田がもう一度低く声を漏らし、叔父貴を見つめる。叔父貴は一歩近づくと、鴇田に顔を寄せた。
「なぁ、いつも冷静なお前らしくないぞ?少し考えれば分かることじゃないか」
急に優しく声音を変えて、叔父貴は鴇田の口元に流れる血をぬぐった。
叔父貴の骨ばった指が、鴇田の口元をそっとなぞる。
鴇田は目を開いて唇を結び、それでもどこかその目には恐怖の色が浮かんでいた。
あたしも同じ。
ごくりと喉を鳴らして、ただ叔父貴の横顔を見つめるしかなかった。
叔父貴は鴇田の口元に触れていた手を滑らせて下にずらすと、ゆっくりと首筋から喉元、肩へと順に這わせていった。
滑るように流れるその触れ方に、一種異様なまでの優しいものを感じたが、あれは優しさなんかじゃない。
あれは―――叔父貴の中の猛り狂う“怒り”だ。
恐怖を感じて、あたしの背中に嫌な汗が吹き出る。
叔父貴―――…何をしようってんだ―――?
戒もキョウスケも同じように目を開いて、その行動を凝視していた。
「お前の勝手な行動のせいで、カタギの娘さんまで巻き込みやがって」
ゆっくりとリコのほうを振り返るその顔には笑みさえ浮かんでいた。
その優しくて少し色っぽい表情が逆にこの場には不自然で、あたしの恐怖を煽った。
リコは目尻に涙を浮かべ、あたしにしがみついてくる。
あたしはより一層ぎゅっとリコを抱きしめた。
叔父貴は笑みを拭い去ると、
「そればかりかお前は朔羅にまで手を出した」
今まで以上に迫力を含ませた声で、鴇田に向き直ると、叔父貴は鴇田の手を握った。
そのまま持ち上げて、鴇田の指の間に自分の指を絡ませると、鴇田の顔に顔を寄せ、反対側の手で鴇田の顎のラインをなぞる。
鴇田は目を開いて、こめかみに一筋の汗を滲ませている。
「……申し訳ございません」
「なぁ鴇田。俺が何をしたら一番怒るかお前なら知ってるだろ?朔羅に手を上げた罪は重いぞ?」
ごくりと音を立てて喉を鳴らしたのは、あたしのすぐ隣に居る戒だった。
戒の首筋にも汗が浮かんでいる。
叔父貴が手に力を入れたのか、鴇田が少しだけ表情を歪ませた。
「鴇田、指の一本でも覚悟してもらおうか―――」