。・*・。。*・Cherry Blossom Ⅱ・*・。。*・。
だが親父はそのことにも気付いていて、俺より一足早くに手を打った。
その約半年後には―――百合香は青龍会分家、霧生(キリュウ)組の若頭を百合香の夫に、と据え置くつもりだったのだ。
こうなったら百合香に手を出すことも、もはや不可能。
俺は一生、“鴇田”の―――いや、青龍の子飼いだ。
琢磨さんさえ居なければ、俺は龍崎組を潰すことさえできた。
一家皆殺し。古(イニシエ)から流れる血を絶やし、血縁を閉ざす。
百合香の命を奪うことだって、この頃には俺に何の躊躇なんてなかっただろう。
理由なんてない。
“鴇田”が護るべき者がなくなれば―――
「翔?」
ふいに声を掛けられて、はっと我に返った。
それは百合香の声だった。
「十朱(トアケ)の娘さんのことは―――
残念でしたね」
百合香がゆっくりと振り返って、悲しそうな目で俺を見てきた。
百合香によって摘まれた大輪の花から…風に乗ってその芳香が僅かに香ってくる。
俺は息を飲み、目をまばたいた。
何故知っている―――なんて愚問だな。鴇田の馬鹿倅の噂話なんざ、直系の龍崎が知らないはずがない。
「もともと無理な話なんです。
青龍の男が―――"朱雀”の女に恋をした―――――なんて、な。
馬鹿げている」
そう、あの頃俺は好きな女が居た。
何もかも捨てて溺れるほどの恋情だとは思わなかったが―――……
いや、そう思うことで自分を―――過去を偽っているのは、今の俺。
そうでもしないと、あの頃捨てたはずの気持ちが、またふいに顔を覗かせる。
若かったんだ―――あのときの俺は……
たった一人だけ求めた女は―――
俺より4歳年上だったけれど、いつも少女のように可憐で、心優しかった。
名を十朱 さゆり、と言った。
その女は―――朱雀会直系の十朱組の娘だった―――