。・*・。。*・Cherry Blossom Ⅱ・*・。。*・。
「そうですか。それは良かった」
あたしの答えに、鴇田がまたもふっと表情を緩めた。
何なんだよ、こいつ…
あたしがまたも口ごもると、鴇田は
「愛のない結婚は、辛いだけだ」
と妙にしみじみと目を細める。
何だよ…何か経験してきたみたいな言い方して…
そもそも超!が付くほど現実主義者で利己主義者なこいつが“愛”とか口に出すから調子狂うんだ。
ってか変。
「お前もそうだったのかよ」
思わず聞くと、
「いえ。私は結婚したことがありません」とはっきり答えが返ってきた。
「何だよ!思わせぶりな態度取りやがって!」
ぷりぷりしながら乱暴にアイスティーのストローに口を付け、そしてふっとある考えが過ぎった。
再び戒の方を見ると、戒はこっちをじっと睨みながらもトレー拭きに専念している。
あたしは曖昧に苦笑いを返し、そしてマイペースにコーヒーを啜っている鴇田に視線を戻した。
さっきは―――
鴇田のてのひらに居る戒を、鴇田が潰そうとしているように見えたけど、
あの仕草は―――
大事なものを包み込む手つき。
鴇田は頬杖をついて窓の外をぼんやりと眺めている。午後―――一番太陽が高く昇る時間帯で、夏の陽光が鴇田の顔を明るく照らし出してた。
だけど鴇田はその陽光から顔を背けるように、眉をしかめ、
「暑いな。嫌な季節だ―――」
一人呟いた。