。・*・。。*・Cherry Blossom Ⅱ・*・。。*・。



会長から受け取ったメールはまだ未開封のまま。


パソコンをカーナビに接続して車を走らせる。


『20XX年、8月X日。PM3時45分、“龍崎会長”様から一件のメールが届いています』


とカーナビの無機質な機械音声が読み上げた。メールが届いたのは今から一時間程前だった。


音声対応のカーナビに、「読め」と短く命令すると、


『今日はあの付近で花火大会が行われる。青龍会本部で朔羅と花火を見る予定だ』


と無機質な音声がまたも内容を読み上げる。


前を走る車がやたらと車線変更していた。若者が乗るような派手な色のスポーツカーだ。


目にも鮮やかな赤色が俺の苛立ちを誘う。そう言えばイチのフェラーリも赤だった。


青龍会に行くメインの大通りは車の量が多く、わずかに渋滞していた。花火大会が開催されることは知っていたから、そのせいだろうと思うが。


前の車はよっぽど先を急いでいるのだろうか。いや、違うな。


さっきちらりと見えた…運転席には若いチャラそうな男が運転していて、助手席には同じ年代の派手な女が乗っていた。


イチと同じぐらいの年齢だろうか。


おおかた女にドライビングテクニックを披露しているのだろう。


「ち。危ねぇな」と舌打ちするも、すぐに苛立ちが鎮まっていく。




花火大会……か。





会長は―――最後の花火を愛する人と一緒に見られるのだ。




今まで―――


会長ご自身で決断されたことではあったが、随分と虎間 戒に遠慮して、お嬢の身辺に近づかず、お嬢の心をなるべく揺さぶらないよう、なるべく動揺させないよう極力注意を払っていた。


あの方が抱き続けているただ一つの感情―――



自分が「愛している」と伝えても、もしその愛が伝わっても、二人には未来がないことが分かりきっているから。



だから手放した。





彼女がもっとも幸せになる未来を、彼女に用意して―――






でも―――あなたは本当にそれでいいのですか?






すぐ傍まで出かかった言葉を、俺は何度飲み込んだか。




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