栄人と優人ーエイトとユウトー
早和の不安そうな声に、優人が優しく早和の頬を両手で包む込み、そっと笑いながら言った。

「早和さん・・・早和、俺十九年間で今が一番幸せって言ったよね。
今迄ずっと兄貴がいてくれたけど、こんなに幸せな気持ちになったのは初めてだよ。
早和ってね、他人て気がしないんだ。
俺の一部って言うか、一緒にいることが自然なんだよ。
きっと、二人はこうなる運命だったんじゃないかな・・・。
なんて、ちょっと格好付け過ぎ?」

早和は、「ちょっとね!」と笑いながら言った。
けれど、それは早和自身も以前から感じていたことだった。

(こうなる運命だったんだよね、お父さん、お母さん、お姉ちゃん。
あの夢は、それを伝えたかったんでしょ?)

幸せに包まれた沈黙を、電話の音がかき消した。
早和はただ電話を見つめて、出ようとはしなかった。
早和も優人も、誰からの電話か分かっていた。

「栄人さんからだね。
どうする優人?あなたが決めて。」

「俺の気持ちは決まってるよ。早和もいいんだね。どうする?俺が出ようか?」

早和は電話の音の方へ行こうとする優人を止めて、自分でそっと受話器を取った。

「もしもし。」

「あー、よかった。
帰って来てたんだね。
携帯に掛けるけどつながらないし、自宅に掛けるけど出ないし、今度出なかったら今から早和のアパートに行こうと思ってたんだよ。
でも、遅かったね、何かあったの?」

栄人の声は優しく、心から心配しているのが分かった。

「う、うん。あの後、変な男に襲われそうになって。」

栄人が息を呑むのが電話越しに分かった。

「あっ、でもそこに偶然通りかかった優人君が来てくれて、助けてくれたの。だから、私は大丈夫よ。それから・・・。」

早和は、そこまで一気に話した。
しかし、それから先をどこまで話せばいいのか分からなくなり、黙ってしまった。

「早和、早和大丈夫か?どうかしたのか?俺が家まで送っていれば!」

栄人の声が震えている。
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