栄人と優人ーエイトとユウトー
「栄人さん、私明日、会社に辞表を出します。
栄人さんが許してくれるまで、決してあなたの前には現れません。
あなたの代わりにはなれないと思うけど、これからは私が優人君と一緒に生きて行きます。
本当に・・・、ごめんなさい。」

早和は、涙を必死で堪えた。
栄人が、やっと口を開いた。

「許す?俺は、一生お前達を許すつもりはない。
早和、お前がそんな女だったとは思ってなかったよ。
まあ、俺に女を見る目がなかったってことだよな。
こんな女でいいなら、優人、お前にくれてやるよ。
お前も、いつ捨てられるか分からないけどな。
そん時に後悔しても、お前の帰る場所はないから。
もう、二度と俺の前に現れるな!」

ドンッ!とテーブルを叩く栄人の拳が、怒りの為に震えていた。
栄人の背中が、出て行け!と訴えている。

「分かった。早和、行こう。」

優人が、諦めたように立ち上がった。

「優人、先に出てて。
荷物は私が後で運ぶから。
私、どうしても栄人さんに話したいことがあるの。
できれば、二人で。」
一瞬優人は何か言いかけたが、その言葉を飲み込み「そう、じゃあ下で待ってるから。」とだけ言って、出て行った。
優人の足音が聞こえなくなるのを待って、早和が話し始めた。

「栄人さん、私にも早く出て行ってもらいたいと思っていることは、分かってる。
でも、どうしても今、伝えておかなくてはいけないことがあるの。
優人君・・・、脳に新たな腫瘍が見付かったの。」

栄人が驚き、早和の方を向いた。

「今日、二人で近藤先生の病院に行って来たの。そして・・・。」

早和は、栄人に近藤の話を伝えた。

「明日入院するけど、優人君はまだ、悪性だということは知らないの。
ただの検査入院だと思ってる。
けれど、手術をするかどうかは彼が決めなくてはならないから、近い内に知ることになるわ。
彼がどんな決断をするか分からないけど、私はもう泣かない。
先生に誓ったの、どんなことがあっても彼を支えて行くって。
できたら、あなたも一緒に支えてー」
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