栄人と優人ーエイトとユウトー
「そんなこと、できるわけないじゃないか!」

早和が全部を言い終わらない内に、栄人が遮った。

「そうよね・・・。でもいつか、私のことは許してくれなくてもいいから、優人君にだけは会いに来てあげて欲しいの。
お願いします。」

早和は栄人に深く頭を下げ、それだけ言うと、荷物を持って外で待っている優人の所に向かった。

一人残された栄人は、ただ呆然としていた。
早和の話が、頭の中で何度も繰り返される。
「優人・・・。チクショウ!」

何度も何度もテーブルを拳で叩いた。

「何で俺達は、幸せになれないんだよ。」

涙が頬を伝う。
栄人は二人のことを憎んでいたが、同時に許してもいた。
二人は分からなかっただろうが、栄人には、初めから二人が惹かれ合うことが分かっていたからだ。
以前早和に話したことがあったが、優人と早和には同じ空気が流れている。
栄人が早和を好きになったのは、早和の中に優人を感じたからかもしれない。
栄人はこうなることが分かっていたからこそ、早和にプロポーズするまで優人のことは黙っていたし、優人と早和を会わせようとはしなかった。
自分のことよりまず人のことを考えてしまう二人だから、プロポーズをした後なら、どんなに惹かれ合おうとそれを口にすることはないと思っていた。

「俺もズルイよな。」

栄人はつぶやいた。

「結局、なるようになったってことか。」

けれど、だからといって、簡単に二人を受け入れることはできない。
例え、優人が後わずかな命でも・・・。

「ああ、俺はどうすりゃいいんだよ!父さん、母さん、俺の代わりに優人を守ってくれよ。頼むよ・・・。」

翌日、早和は会社に辞表を持って行った。

仲人であった新庄にも訳は言わず、ただ結婚を止めたことだけを告げ、心から詫びた。
新庄は既に栄人から話を聞いており、早和の人間性も分かっていたので、「がんばんなさい。」とだけ言うと、優しく早和の肩に手を置いた。
早和は涙を堪え、返事をすることができなかった。
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