栄人と優人ーエイトとユウトー
「父さんや母さんにはもうすぐ会えるけど、兄貴にはこのまま会えないのかと思ってた。
俺、最後にどうしても兄貴に言いたいことがあったんだ。
・・・早和のこと、本当にごめん。
でも、早和がいたお陰で、俺、幸せな人生を送ることができたよ。
兄貴、俺のことは許してくれなくてもいいから、早和のことはもう許してやってくれないか。
兄貴に迷惑ばかり掛けてきた、弟の最後の我がままだと思って。駄目かなあ。」

優人は、途中息苦しい様子で、何度も大きく息を吸いながら言った。
栄人が優人の手を取り、しっかりと握り締めた。

「優人、お前は我がままなんて言ったことなかったじゃないか。
いつも何でも我慢して。
早和とお前のことは、ずっと前から許してたよ。
俺は、お前達が惹かれ合うことは最初から分かってたんだ。
二人は似ているもんな。
けど、俺にもプライドがあった。
そう簡単には、二人を受け入れることができなかったんだよ。
俺こそ許して欲しい。
ちっぽけなプライドの為に、お前達に何もしてやることができなくて・・・。」

優人が、微笑んだ。

「よかったあ。これで安心して、父さんや母さんの所に行けるよ。
兄貴、早和を頼んだよ。早和?早和いるの?」

早和も優人の側に行き、しっかりと手を握り締めた。

「いるよ。ここにいる。優人・・・。」

優人も握り返したが、微かな力だった。

「早和、今迄有難う。とても幸せだったよ。・・・愛してる。」

優人は最後に大きく息を吐いて、そのまま永遠の眠りに就いた。
優人の閉じた目から涙がこぼれたが、顔は優しく微笑んでいた。

近藤が駆け付けて死亡を確認すると、早和は一気に体の力が抜け、そのまま意識を失ってしまった。

早和が目覚めるとそこは病室のベッドで、横に心配そうに栄人が座っていた。

「優人は?」

「今、看護師さん達が処置をしてくれてる。
終わったら、一緒に家に帰ろう。
俺の家がいいかな、早和の家がいいかな。」

早和はしばらく考えて「三人の楽しい思い出がある、あなたの家にしましょう。」と言った。
栄人は黙って頷いた。
そしてー
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