鼠の知恵
カシラが盾の代用品に選んだのは、既に雛が孵った後に残る卵の殻だった。

彼らに鶏のように大きな生物と相対した経験はなく、イガ栗よりも厄介な相手ではないかとカシラは鶏の動きに警戒していたが、雛を連れた鶏は殻を選別する鼠の集団を一瞥しただけで、鋭い嘴や爪を向けなかった。

守るべきは雛であって、孵った後の殻は守る対象ではないという事だろう。種は違えど、生物として根底にある本能は同じだ。



半分に割れた殻を三匹ずつ交代で、砕かないよう慎重にくわえて運んだ先は憎きイガ栗。

カシラは殻を兜のように被り、イガ栗目掛けて歩を進めた。殻はカシラの身をイガ栗の攻撃から守り、僅かにだがイガ栗を押していく。

「手伝いますよ」

泣き言を漏らし、一度は戦う事を諦めかけた仲間達もカシラを後押しする。

この先に米があると思えば、子供が生き残る糧があると思う程に、全員の足へ込められる力が増す。

壁とイガ栗の間に一匹が通れるだけの隙間が現れ、そこから穀物庫への侵入を果たした鼠達は家族を連れて腹を満たし、冬への備蓄食糧を意気揚々と持ち帰った。

この勝戦は鼠達に知略の重要性を教える実例として、子々孫々にまで伝えられた。





遠い昔から人間に害獣と忌み嫌われ、あらゆる手段を用いて駆除されても尚、種を存続させている点から考えると、鼠は案外頭が良く、子を残すという健全な本能に関しては、人間以上に忠実な生物かもしれない。





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