軽業師は新撰組隊士!


――――――…


今宵は、月が見えん。

そう思う。


「お父さん。」


楓が我に近寄ってきて、二枚の札を手渡す。


「これ、時がきたら、土方さんに渡してほしいんだけど。」


……そう、時間はない。
我は口で札を受け取る。


――――楓の命は、今夜まで。


「お父さん。…ありがとう。男手一つで、私を五歳まで育ててくれて。いつも、見守っていてくれて。ありがとう。」

「……あぁ。」


お礼を言うのは、我の方なのだ。

少し意地っ張りで
優柔不断で
いつも、遠慮がちで


それでも

生きる喜びを知ってくれた。



我にとって
守りたいものは楓じゃった。

我の生きがいじゃった。



ありがとう。


池田屋に向かう楓の背中を見て、我は反対の方向へと走り出す。


楓の命は、今夜まで



だが―――…



―――――――――




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