軽業師は新撰組隊士!
鳥の命は儚くて
そして、夜もまだ長いころ、楓は目が覚めてしまい布団から上半身だけ起き上がると
「お父さん。」
闇に隠れるように、黒猫――克が佇んでいた。
「近藤という男は厄介じゃ。なかなか解放してくれんでの、暑苦しくてたまらんかったわい。」
「そうなんだ。私はね、今日、沖田さんと買い物に行ったよ。…いろいろあったけど、楽しかった。」
「そりゃあ良かった。……なんせ、お前の命はあと少し。楽しんでなんぼじゃ。」
その一言で、楓は入隊試験前の、克との会話を思い出す。
――――…
『我の分も生きて欲しかった。だが……お前の命は、あと三カ月での。…なんせ、お前は綱から落ち、一回死んでおる。』
『死んで…たんだ。』
『うむ。だがのぅ、楓………助かる方法は、あるにはあるのだ。』
『え?』
―――――…
「あの方法を、使いたくはないのだろう?」
「うん。さすがに、ね。」
助かる方法ならあった。
だがそれは、……誰かを巻き込むことになる。