微動
「まだ見つからないのですか?裁判所は10日間の勾留延長を決定しましたから、残り10日間ですよ」

分かり切った答えをしてきた。

「坂本の周辺を洗ったが、動機を持つ人間も、不審人物もいない」

「木を見て森を見ず。いやいや、森を見て木を見ずだった」

「…?私が探しているところは間違いないのですか?」
「まったくの見当違いではありません」

「そこまで言って、なぜあなたが真犯人を挙げない?」

進展しない調査に苛ついていた俺は、志田に当たった。

「私ら現場の人間は、上の意向には逆らえないんです。よくご存じのことでしょう?」

「しかし、あなたは私を動かしている!」

「私にも良心がある。やってもいない人間を、刑務所送りに出来ない!」

香奈子にも面会を求めたが、拒否された。

残り10日を無駄にできない。

香奈子の身辺を洗うことにした。

事件直前に、変わったことはなかっただろうか。

職場や友人にあたってみたが、特に変わった様子はなかったようだ。

マンションの管理人にも訊いてみたが、普段と変わった様子はなかったようだ。

しかし、被害者と付き合い始めた時期に、思い悩んでいる様子があったらしい。

深く調べたかったが、手段がない。

部屋に入りたくても、法的に無理だった。

何か良い知恵はないのか?

残り7日間。

香奈子の主戦弁護人に面会を求めた。

滝沢という老獪な弁護士だった。

「私には犯行の一部始終を話してくれましたよ。公判では情状を訴え、刑の軽減を求めることになっています」

「しかし、彼女が無実であることも否定できません」

「一度認めているんですよ。動機もある。公判で否認するには無理があるでしょう」

裁判前に戦うことをしない目の前の弁護士に、実際の法廷よりも、もどかしさを覚えた。

「私を助手として使って下さい。起訴されたら退きます。調べたいことがあるんです!」

滝沢弁護士は、渋面を作って、好きにしたまえと言った。

私は手続きを踏んで、坂本のアパートを調べた。

警察が調べた後では、手掛かりが残っているとは思えなかったが、探さずにはいられなかった。

結局、職場での写真と車の契約書を入手した。
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