微動
「容疑者…。北村香奈子の部屋で、あなたとの思い出の品を発見したんです。大学の合格通知です」

「…。なんですって?」

「合格通知です。あなたは覚えてらっしゃらないんですか?」

合格通知は覚えている。

「それが、どうしたと?」

「合格通知には、こう書いてありました。『約束は果たしたよ。今度は雅也の番』と」

志田が一呼吸置く。

「それに対してあなたの返答がこうです『俺が弁護士として独立した暁には、香奈子を嫁にするぞ』です」

忘れていた訳ではない。

そんな約束、香奈子が待っているとは思えなかった。

現に、独立を待たずに香奈子は離れて行った。

「茂野先生、あなた昨年独立なさいましたよね?」

弁護士になって7年、昨年独立した。

「香奈子は私を待っていたと?」

「弁護士の妻になるつもりの女性が、なんであんな下らん男を殺さなきゃいけないんです?」

「付き合っていたんでしょう?」

私は冷静でいられなかった。

「一時の気の迷いでしょう。寂しさからの…。奴と付き合うのに、随分と悩んだようですよ」

そのことは調査中に聞いていた。

「香奈子に面会を求めます」

本人が希望するかどうか分からなかったが、会わずにはいられなかった。

面会室に入ると、香奈子が入って来た。

「香奈子、長いこと待たせてごめんな。今日は、約束を果たしに来た。俺、去年ようやく独立したんだ」

香奈子は、一瞬驚いた様子を見せたが、涙を堪えてこう言った。

「知ってる。ずっと待ってたから…」

「香奈子さえ良ければ、俺は返事を待っているよ。いつまでも」

香奈子は、涙を溢れさせながら、漸く声にならない声で、ありがとうと言った。

「本当のことが知りたい。俺になら全て話せるね?」

香奈子は、涙を堪えながら、ポツポツと話し始めた。

被害者の坂本佑輔は、店の常連客である服部和馬から報酬を受け取り、和馬が連れて来た女性の飲み物に、薬を混ぜて出していた。

女性が昏睡したところを、和馬が連れて帰りレイプする、という手口を繰り返していた。

時には、店に来ていた別の女性客にも、触手を伸ばしていた。

坂本は服部からの報酬で、車を購入。
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