feel〜優しい体温〜
「ただいまぁ!」


「遅かったじゃない!何かあったの?」


「ん。ちょっとね〜」


「あら〜?いい事あったみたいねぇ。やっぱり恋?」


「ち〜が〜うって!ただ、凄い人がいるもんだなぁって」


「へぇ、どんな人?」


「耳が聞こえないんだけど、クラリネット吹いてるんだ。ちょっと性格に難があるけど……」


「きっと精神的に強い人なのね、その人」


多分……ね。私もそうなりたい。


暗中模索状態でも片手に持ったクラリネットだけは手放さない、ハルトみたいに……。


「あなたもその人に刺激されて頑張ればいいのに。忘れた訳じゃないでしょ?漫画家になる夢」


「私はダメだよ……完全に何書いてるか解らないもん」


「そう?私は同じだと思うけどなぁ……。目の見えない漫画家志望と、耳の聞こえない音楽家。同じくらい大切な物を失って、頼りになるのは指先の感覚と精神力だけ。その人はクラリネットだけは離すまいと頑張ってて、あなたはあれからペンを握ろうともしないじゃない。差があるとすればそこなんじゃない?」


「うっ……」


図星も図星、大図星。口調は穏やかだけど、いきなり痛いところをエグって来た。


やっぱこの人は私の全てを知ってるな。


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