feel〜優しい体温〜
ふぅ、着いた。まだ検査中みたいだな。


−チビ、まだ検査中だってよ。


「そう……ビックリしたよ。最初は全然痛くないって言ってたから……本当に平気そうだったんだよ?なのに突然……」


−ケンタ、何も言ってなかったのか……アイツ、お前に心配かけたくなかったんだろうな。


「……?何それ?」


−ふぅ……アイツ、無いんだ。


「何が?」


−痛みだよ。痛覚ってのが無いんだ。


「え……痛みが?ごめん、私バカだからピンとこない……」


−ごく稀にいるらしいんだ。"触ってる"って感覚自体はあるらしいんだが"痛い"とか"熱い"って感覚を持たない人間がな。


「それが……ケンタくん……」


−そう。今回は自転車でひかれただけだから、まだいい方だ。


「もっと酷い事あったの?」


−あぁ、人間てのは"痛み"があるから、無意識にある程度セーブして行動してる。


−歩く時だってそう。痛いと解るから優しく歩けんだ。だからアイツ、カカトなんかはしょっちゅう骨折してるし、酷い時は自分でやっちまう時もある。二ヶ月前なんて、自分の手をライターであぶったらしい。痛みが欲しくてな。


「そんな……ケンタ君……」


あんな小さい身体に、そんなに大きな荷物を背負い込んで……私なんて幸せなもんだね。


今は見えないけど、"見えてた経験"はある。でもあの子は生まれつき……何か自分が恥ずかしいよ。私だって辛い思いはしてきたけど、そんな事もちっぽけに思える。


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