feel〜優しい体温〜
曲が終わると同時に、込み上げて来た色々な想いが涙となって、私の頬を伝う。


「……さぁヒカリ、出番だよ!」


とお母さんが言うと、手に持っていた"ガサガサ"を私に持たせた。


「お母さん、これ……」


「花束だよ!あなたが渡さないで誰が渡すの?さぁ、ハルトさんいなくなっちゃうわよ!」


「お母さん……」


私は溢れ出す涙を拭い、立ち上がると、ケンタの手を取り、ステージに向かってゆっくりと歩き出した。


「え?僕も行くの?」


「当たり前!こうしてハルトが壇上に立っているのはケンタのお陰でもあるんだから」


「う……うん……」


一歩一歩確かめる様にステージに近付き、階段を上ると、ハルトが優しく私の手を引いてくれた。


「ハルト……お疲れ様!すごく良かった!」


−ありがとう。今の俺があるのは、間違いなくヒカリのお陰だ。もちろんケン坊もな。


と言うと、今度は固く手を結んでくれた。


それと同時にホールは割れんばかりの拍手に包まれ、私は少し驚いた。


すごい……音楽の"お"の字も知らない私が今、ハルトと同じステージに立ってるんだ……。


「なんか……私まで拍手されてるみたい……」


−あぁ、これはヒカリに対する拍手でもあるんだよ。


「へへ……何か恥ずかしいな……」


−……ヒカリ。俺、これからすぐ日本発つよ。


え……?……そんな突然……。


「そっか……。ハルトの夢だったもんね!しっかり頑張るんだよ?!」


−……あぁ、ヒカリもな。


「次会う時は、私の目が見える様になってからだね!」


そう言うと、ハルトはゆっくりと手を離し、私はステージを降りた。


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