夜光虫
序章
夜の海岸は、波音と時折通りすぎる車のエンジン音が響くだけ。
月明かりに照らされた水面はどこまでも凪いで、静かに寄せては引いていく。
夏の夜、それでもどこかひんやりとする潮風に吹かれ、一人の少女が砂浜に座っていた。
髪の長い少女だった。
青白い月明かりに照らされた肌は白く、そして唇は赤い。
どこか病的なほど、狂気に魅せられた美しさ。
儚げでもあるようで、力強い瞳の輝きを見せる少女は、俯いていた顔を上げて背後を振り返る。
そこに青年が立っていた。
何処かからかう様な、それでいて憐れむような表情で、彼は彼女を見下ろす。
「生き残ったな」
まるでそれが悪いとでも言うように、彼は呟いて苦笑する。
「生きているわね」
それ自体が悪いことでもあるように、彼女は答えて視線を下げる。
「どうしたい?」
静かな彼の声に彼女は再度視線を上げ───・・・・・・
「私を殺してくれるんでしょう?」
その言葉が、風によって消えていった・・・・・・