青い春と風の中で
「――先程も言いましたが、笹川には呉々も気をつけて下さい」


そう言うと葵の持っていた日誌を受け取ると、新倉は足を進める。


「――新倉先生、何故…笹川君に気をつけなければならないのですか」

ピタリと足を止めて新倉は振り向き、複雑な表情で葵を見つめる。


数秒間だけ沈黙が続き、新倉は一言付け足した。

「……生徒が言ってたでしょう」

「ーーでも教師には手は出さない…と、他の女子生徒から聞きました。」


「………そんなの、分かりませんよ」


新倉がポツリと呟いた声が、余りにも小さくて聞き取れなかった。


「え………?新倉先生。ごめんなさい、聞こえなかったんですけど…」


「ーーいえ、何でもありません。次の授業の準備をして来ます。先に教室に行ってて下さい」


葵は新倉が何を伝えたかったのか、分からずじまいのまま、時間は進んでいった。




< 25 / 90 >

この作品をシェア

pagetop