青い春と風の中で
―――――
―――


葵はコピー室から飛び出した後、すぐには職員室には戻れず、気持ちを落ち着かせる為に、屋上に来ていた。


もう夕日は傾いてきて、少しずつ薄暗くなってきている。


「はぁ……。」


胸の中にあるモヤモヤを取り払うように、葵は深い溜め息を吐いた。


【ガチャ…。】

「――やっぱり此処に居たんだ。」

笹川が手を後ろに回して、葵に近付いてきた。


「春……。」

「なぁ〜に、辛気臭いツラしてんだよッッ…。ほらっ♪」


そう言って、笹川がキンキンに冷えたジュースを葵の頬に押しつけた。


「――ッッきゃぁ!!冷たっ…」


「ははははっ」


葵は笹川から貰ったイチゴ・オレのパッケージを眺めていた。


「葵さん。もしかして、それ嫌いだった?」
ひょこっと顔を近付けて、覗き込むように見つめる。


「ううん。大好きだよ」


「そう、良かった♪俺も大好きッッ」

チュッと、ほんの一瞬だけど、笹川の唇と重なった。


葵はポカンと口を開けて、一瞬なにが起きたのか理解不能だったが、すぐに我に返って、頬を膨らませて怒ったフリをした。


「ちょっと〜…。」


「さっき俺が来なかったら、アイツにキスされてただろう?……罰だよ、罰。」


そう言って笹川は舌を出しておどけていたけれど、実は嫌じゃなかった。


――新倉にキスされそうになった時は、本当に嫌で抵抗したけれど、春との一瞬のキスは嫌じゃなかった。。


笹川から貰ったイチゴ・オレのパックをストローで突き刺し、ひとくち飲んでみた。

凄く甘ったるい香りと味が、葵の口の中に広がっていく。


「甘い……。」



何だか、笹川との一瞬のキスみたいだなぁ〜…なんてボンヤリ考えながら、またひとくち飲んでいた……。



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