青い春と風の中で
まさか――。


自分の母親が後ろに居るなんて…。


うっすらと額から冷や汗が滲み出て、思わず緊張して喉をゴクリと鳴らした。


「一緒に居た男の子、葵の生徒さん?」


「う、うん…」


葵は目を泳がせて、これ以上詮索されないことを願っていた。


「そう……――。何だか随分、好かれて居るみたいね。嬉しそうに手まで振っちゃって。」


母は笑って細くなった目で、葵を見つめている。


「――ま、まぁね。」


ははっ…と、苦笑いを浮かべて、"――赴任初日で、生徒に告白された――。なんて絶対に口に出して言えないなぁ…"


――と、葵は思っていた。



「今日は、葵の好物のすき焼きよ♪――タレを切らしてしまっていたから、近くのスーパーで買い物して来たわ。……そのついでに、……ビールも」


そう言って、ガサッとエコバックを片手で上げてみせた。




――――
―――





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