AKIRA
「は? 誰が?」

「その木下って子と、加藤……」

「何のために」

「なんでも、その試合で勝った方が江口と組むんだって」

「勝った方って……」

 やるだけ無駄じゃね? だって木下が晶に勝てる訳ねぇし。

「モテモテだね、江口」

 それが冗談なのか本気なのか、俺は苦笑いを返すしかなかった。でも、晶以外にモテても仕方ねぇし。

「……面白れぇ、俺、見に来ようっと」

 服部が呟きざまに立ちあがり「お疲れでした」と言って部室を出ていった。

でも『面白い』その言葉の意味は、たぶん木下が勝てないのにって事だろう。晶の事を知っている奴なら、絶対にそう思う。

「でも、なんで先輩、悩んでんすか? どっちが勝つかなんてわかるでしょ」

 そんな簡単な事なら、悩む必要ねぇのに。

「いや、万が一だよ、万が一……加藤と組めなかったら、絶対に江口も出ないって言うだろ」

「ああ、まぁ……ですね」

 なんだ、そんな事か……心配するだけ損だな。

「やっぱりなぁ~……あんだけ加藤と組みたがってたもんな~」

 そう言って、先輩は頭を抱え込んだ。

 それにしても、万が一もくそもねぇっての。

 晶は絶対に勝ちに来る。負けず嫌いだからな……いや、そうでなくても絶対に勝てる。

 木下の奴、晶を甘く見過ぎなんだよ。毎日、晶の事を敵視して、負ける事まで挑むなんて、浅はかだ。

「まぁ、俺も明日見に来ますけど、心配いらないと思いますよ」

 そう言って、俺はカバンを持ち、ドアへ向かった。

「じゃ、先輩、お疲れでした」

「ああ、お疲れ」

 そんな気力のない先輩の声を背に、俺は部室を後にする。

 なんの心配もいらない。



 必ず、晶は俺の隣に来るってわかってるんだから。



 晶、そうだろ?



 お前も今、この星空を見てるか?



 このきれいな空は、昔とちっとも変らないのに……なんで俺たちは……昔のようになれないんだろうな。


 昔は近いと思ってた存在が、今は遠過ぎる……また、お前と肩を並べて歩きたいとか、それも遠い夢なのか。



~ 指名:陽side FIN  ~




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