AKIRA

 今度は赤かったはずの顔が、青に変わっていくような気がした。血の気が引いていく。

「あれ? アキは、江口君の事、す……っ!」

「わぁ! わぁかった……から」

 俺は慌てて京子の口を掌で塞いだ。

「いい、いい、よせ」

 そのまま俺は、周りをキョロキョロ見回して、誰もいない事にホッとした。そして、ゆっくりと京子の口から手を放す。

「アキ?」

「み、認めるよ、だから、それ以上……い、言わなくても……」

「ん、わかった」

「あ、あのさ……俺、そんなに態度にで、出てる?」

 俺の問いに、京子は首を縦に振った。

「……マジかよ……だったら、あっちも……」

「う~ん、どうかな~……江口君も気付いてるかって事だよね……たぶん気付いてないと思うよ、ほら、私はいつもアキの事見てるじゃない? だからわかるだけだし、あ、でも違う意味で見てるっていったら……」

 気付かれてない? そうか、だったらいいんだけど……。

「違う意味、って?」

「う~ん、内緒?」

「なにがっ!」

 京子は、ふふふ、と意味あり気な笑みを浮かべると、すかさず片手をあげた。

 なんだ? 

「じゃ、私、駅こっちだから」

 そう言ってバイバイと手を振る。

 ちょっと、待て――――っ!

「お、おいっ!」

 かなり話が中途半端じゃね?!

 駆け足で駅に向かう京子の背中が遠ざかる。

「おいっ!!」

 俺の声を受け止めた京子が、ふと、立ち止まった。そして、満面の笑みを浮かべて振りかえる。

「アキが何を気にしてるのか知らない。でも言いたい事はちゃんと伝えなきゃ損だよ。もしも、アキが自分で言葉使いが男みたいだからって事なんだったら、それは気にしないでいい範囲だと思う……だって、だってアキはアキで、ちゃんと乙女してるよ」

 は? 

「じゃぁね、また明日、頑張ってね」

 自分の言いたい事だけ言って、京子はまた、背中を向けた。京子を引き留めようと伸ばした俺の腕が、虚しく宙に置き去りのままだ。

「お、お、乙女ってなんだよ……」

 俺は、ゆっくりと腕を戻した。

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