AKIRA

 俺が気にしてる事……ってなんだ? 自分でもわかんね。でも、言葉使いじゃないって言ったら嘘だ。あ、やっぱ言葉使いなのか? 

 陽は『女は大っ嫌いだ』って言った。でも、俺は女だから、昔の俺じゃなくて、今の俺を見て欲しいって思った。

 だから、男みたいにつるんでた、あの頃の俺を、知られたくなかった。いや、でも本当はどっかで、俺だって知ってほしいって思ってたのかもしれない。

 あ――――っ、くそ! わかんなくなってきた。

 だいたい俺は、なんでこんなに気持ち隠してんだろ。そうだよ、はっきり言っちまえば済む事じゃないのか?

 いや、でも振られるのが怖かったんだよな。いやいや、陽には彼女がいたから遠慮して?

 いやいやいやいや……でも、陽がもし、俺が、あの時の俺だって知ってたら、既に『よう、久しぶりだな』って言ってくるんじゃね?

 そうだよな、もし気づいてたら、言うよな、普通。

 って事は……気付いてない……だったら今さら俺だって言っても『はぁ? あの時の男がお前? キモい』って言われる可能性もあるって訳だ。

 そうそう、俺はそれが怖くて……いや、陽がそんなこと言う奴じゃないってわかってるだろ……って、違――――――うっ!

 俺は混乱にしていく頭を掻きむしった。

 俺は――……陽を好きなんだって気付くのは簡単だった、でも、伝えるのってこんなに難しいもんだったなんて知らなかった。だから、いつも素直に好きって言える京子や啓介が羨ましかった。



――言葉で言わなきゃ伝わらない。


 その通りだな。

 俺だって啓介に言われるまで、全然気付けなかったし……つか、気付いてやれなかった。あの時、俺がもっと素直に言ってたら、女で陽を好きなんだって伝えてたら、今、こんな苦しむ事はなかったのかもな……あ、ヤベ、泣きそう。

 俺は、流れようとする溢れるものを、ぐっと下唇を噛みしめて堪えた。
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