AKIRA

 何やってんだ、俺。結局、俺は自分から逃げてたんだ。

 小学生のころは『俺』でよかったかもしれない。でも、高校生にもなって『俺』って言って、しかも陽を好きなんだって言ったら、嫌われるんじゃないかって思い込んでた。

 だから、俺自身が、あの頃の『俺』を封印しようと必死だったのかもしれない。

 『俺』は『俺』なのに、無理して『あたし』に変わろうとして、結局、苦しくて。

 自分自身を見て欲しいって思ってたのに、俺が自分自身を隠してたんだ。







 そうこう思い悩んでいるうちに、なんか家に辿り着いてるし……。

「くそ、何やってんだ」

 呟きながら、俺はスカートのポケットを弄った。

 ああ、もう無理するのやめようかな……って、あれ?

 あれ? 

「…………ない」

 家の鍵が、ない。

「嘘だろ!」

 どこやったんだよ、家に入れねぇじゃんかよ!

 あちこち探しても、ないものはない……俺は、今日の記憶を必死で探った。

「あっ」

 そう言えば、今日、鎖が切れた鍵がカバンから落ちて、そのままポケットに入れたと思ってたけど、あの時、面倒くせぇとか思って机に放り込んだった。



 ああ、マジで血の気が引いていく。今日は何回引けばいいんだよ! ったく。


「しゃぁねぇな」



 俺は鞄だけを玄関先に置き、踵を返した。

 取りに行くしかねぇよな、スペアねぇし……って、マジで俺、泣きそうだよ!







~ バレバレ:晶side FIN ~
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