AKIRA
下駄箱を三つほど挟んだ向こうから、何やら言い争うような声が聞こえた気がした。
嘘だろ、まさか……見ちゃいけないもん、とか聞いちゃいけないもんとかじゃねぇよな。
また、ガタリ、と下駄箱が揺れる。
ま、ま、マジで、ゆ、ゆ、ゆ、幽霊様?! ポルターガイスト?? 冷汗だらだらなんすけど――――っ!
俺は思い切り頭を横にブンブンと振った。
あ~嘘嘘、絶対ないよ、ない、ない、ない。
そうだよ、そんな事ある訳ねぇじゃん! あ、自分に突っ込んでも面白くねぇけど、でもちょっと、そうちょっとだけ震える自分がいるのは確かだ。
帰ろう、そう思って、そろり、と足音をたてずに、息を殺し、玄関を出ようとした。
「あんた、目障りなんだけど」
は? なんだ、これ……ああ、ちゃんと人の声だよ。幽霊じゃねぇよ。ってか、俺?
「はっきり言って邪魔なのよ」
だ、誰もいねぇし、俺じゃねぇか……でも、ま、良かった、俺一人じゃないなら、もう怖くねぇぞ!
「なに毎日、彼女面してんのよ」
「あんたマジでウザいんだけど」
つうか、これは、なんだ忠告か、いじめか……って、いじめ?!
思わず息をごくりと飲み込んだ。複数の声がするって事は集団か?
あ、ここは出てった方がいいか? いいだろ、やっぱ。見過ごせないよな。俺、そういうの嫌いだし……そして、一歩を踏み出す。でもそれはすぐに止まる事になる。
また、ガタリと音がする。
「その汚い手、退かしてください」
亜美の声だ。アイツ、まだ帰ってなかったのか……。
「は? なに生意気言ってんのよ! 立場わかってんの?!」
「解ってますけど、先輩方には関係ないと思います」
「関係なくないでしょ?!」
「自分たちが相手にされないからって、文句言わないで下さいよ」
「なによ、あんた! ちょっと幼馴染だからって!!」
ああ、絶対にこれ、陽関係だろ。そう思って、俺は深いため息を落とした。
時だった。
「ふん、たかが幼馴染がキスしないでしょ?」
え?
今――――なんて言った??