AKIRA

全身が、震えている。

「あんたなんか大っ嫌い!」

 そう言って、亜美に突き飛ばされたとわかったのは、地面に背中を打ちつけてからだった。ガタガタと、傍にあった傘立てに足を引っ掛けて転んだ。

 情けねぇ、つうか。

「いってぇ……なにすんだよ! てめぇ!」

「あんたみたいな男女! 大っ嫌い!」

 そう言って、目に涙をためて走り去っていった亜美。

 こんな光景、前にもあった気がする。



 ああ、そうか、あの時。



 コートから泣きながら出てきた女の子だ。

「そっか、あの時の……女の子だったのか……」

 俺は、そのまま気力なく、やんわりと立ち上がった。スカートのほこりを払って、立ち竦む。

 くそ、泣きたいのは俺の方だっての!

 なんか、温かいもんが、頬を濡らしてるなんて、俺、らしくねぇよな。

 一気に俺の心から何かがすり抜けて、落ちていった気がする。

 それでも『好き』って感情だけが、取り残されてて。




――……やばい、涙、止まんねぇ。

 



~ キス、したのか?:晶side FIN  ~


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