AKIRA
木下の体を跳ね返そうとすれば出来る、でも、そうすれば木下が怪我をするかもしれない。そうなれば、試合も近い事だし、厄介になると思えた。
そのまま、俺は力を抜いた。
木下にしてみれば、俺がこいつを受け入れたと思ったのかもしれない。案の定、木下の顔が、徐々に近づいてくる。
たぶん、このまま俺にキスでもしようってんだろ……だけど。
「これ以上やったら、二度とお前とは口を聞かない」
今にも触れそうな瞬間、まるで子供のような言葉とは思ったが、そう言ったら、木下はピタリと止まった。
体を傷つけるより、俺は言葉で傷つける事を選んだ。
「絶対に許さない」
静かにそう言うと、木下の顔が離れた。
「な、んで?」
震える声が聞こえる。体も震えている。でも、俺は応えられない。
「なんでよっ?! 前は私にキスしたじゃない?!」
「はぁ?」
そう言われて、俺は考える……消えた記憶をたどり、思い出しもしなかった事が、脳裏に浮かんだ。既に俺の中では終わった事実だった。気にもしなかった記憶。
でも、こいつには忘れられない事だったのかもしれない……。