AKIRA

 ドアの脇に、腕組をした姉貴が訝しく眉をひそめて立っている。

「亜美はもう帰りなさい」

「でも!」

「でもじゃない、女の子が一人、こんなむさ苦しい男の部屋にいつまでもいちゃダメよ、帰りなさい」

 そう姉貴が促すと、木下は渋々と立ち上がった。昔から木下は姉貴の言う事だけは聞く。そして、帰り際、俺に振り向いた。

「私、明日の勝負、負けないから!」

「ああ、知ってるよ、でも」

「絶対に負けないから! 陽のパートナーは、今までもこれからも私だけなんだからっ!!」

 そう叫んで、木下は走って自分の家に帰っていった。

 嵐が去った後のようだ。部屋は、しんと静まり返り、姉貴のため息の声が妙に大きく響いた。

「まったく……わが弟ながら情けない」

 何がだよ、そう思い俺は苛立った。

「あんた、亜美にキスしちゃったの?」

「どっから聞いてたんだよ……ったく、姉貴の方こそ立ち聞きなんて情けねぇだろ」

「聞いてたんじゃなくて、聞こえたの……で、どうなのよ」

「……ん……」

 俺が返答に困っていると、察したのか姉貴はまた、ため息を漏らした。

「あんた、女の子のファーストキス奪っておいて、忘れろはないでしょ、バカね」

「ばっ……俺だってわかってるよ! でもあの時は熱があって……間違えて」

「間違えただぁ~?!」

「そ、そうだよ、俺は木下にしたんじゃなくて、こう、朦朧としてて、あいつと木下を」

「そんなもん言い訳にならんっ!!」

 人差し指を刺され、姉貴が俺に一喝した。

 それ以上、俺は何も言えない。
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