AKIRA

 目の前の景色はいいとして、まぁ、ちゃんと上から日は射すし、いいんだけど。

 俺はそんな事を思いながら、窓際に飾ってある物に視線を落とした。

 そっと、手に取って見る。

 汚れないように、埃も被らないように、きちんと袋に収納されたそれは、陽が、最初で最後にプレゼントしてくれたリストバンドだ。

 身に付けるの勿体なくて、ずっととってあったけど……なんか、もういいんじゃねぇかって思える。なんか一つでも繋がってたくて、ずっと大切にしてたんだけどさ。

 でも、まだ、いいか?

 俺は、お前の思い出に縋ってても……いいよな?

 もう少し、忘れるまで、時間、掛かりそうだし……。

「お~い、晶~朝飯できたぞ~」

 あ、親父……帰ってたのか。昨日は徹夜残業だって言ってなかったっけ? まぁいいけど、それすら気付かなくて、昨日はあのまま寝ちまったんだ。

「お~い」

「今行く!」

 あ~今日は亜美との勝負の日だ。なんか行く気しねぇ……つか、会いたくねぇ……。

 それでも俺は、渋々と一階に下りて、食卓に座った。

「おい、お前、足どうしたんだよ」

「え?」

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