AKIRA
     ***







「あ、雨か」

 引越しの日は、夏休み最終日だった。

 俺はもう、ここからいなくなる。

 あれから一週間、コートには行ってない。



『待ってるから』



 だからって、本当にアキラが待ってたかなんて、知らない。

 行く勇気がなかった。アキラの前で泣いて、女だってバレるのが怖かったから。そしたら、きっとアキラも冷たくなるって、思ったから。


 だから、このまま、優しいアキラの思い出を、俺の中に残しておきたかったんだ。そして、いつかはアキラを忘れるって思ってた。

 でも駄目だった。日が経つにつれて、寂しく辛くなる一方で、全然、諦める事なんて出来なかったんだから、俺って結構、未練がましいっていうか。

 新しい土地で、男じゃないかって誤解されないように、女らしく振舞おうって決めた。でも、それも長続きしなくて、結局、自分の言葉使いも封印できないままだった。



 持続力のない俺って駄目だよな。



 でも、アキラへの気持ちの他に、もう一つ持続してる事はある。



 それはテニスだ。

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