AKIRA
「おい、アキラ! そんなんほっとけよ!」
誰かが叫んだ。そしたら、アキラは物凄く怒って、その誰かに怒鳴った。
「はぁ?! ケースケが蹴ったんだろ! 謝れよっ!」
「やだよ、ぼーっとしてる方が悪いんだろ!」
「何だと?!」
「い、いいよ」
俺は慌てて手を横に振ったけど、すぐにその手を掴まれて、アキラは真顔で見つめてきた。
「よくない! 俺だってやってたんだ、痛い思いさせて、ごめんな」
なんで『俺』なんだろう。始めはそう思ったけど、でも、そんなのは関係ないってすぐに思えた。女の子なのに『俺』とか言葉使いが男っぽいのも、すべて含めてアキラなんだってわかったから。
「ちょっと待ってろ」
アキラはそう言って、校庭の隅にある水飲み場まで走っていった。傍に居た子に、何か絡んで、更に何かを受け取って……奪い取ってって感じだったけど、それから水道をひねった。
そのまま、それを絞って俺のところまで、また戻ってくる。
「顔出せ」
差し出されたのは、濡れたハンカチだった。
「え、でも、これ」
「大丈夫、アイツには後で新しいの返しとくから、ほら」
「でも」
「ばーか、乾いてる血で顔中真っ赤だそ、拭いてやるよ。お前見えないだろ?」
アキラは、強引に俺の顔を拭き始めた。でも、それは決して嫌な感じじゃなくて、優しくて、丁寧だった。